● 光散乱基礎講座「電気泳動光散乱の基礎」木村 康之先生
A.”白濁したもの”と”粘性の高いもの”は別の状態なので、分けて考える必要がある。
白濁しているのは濃度が高いということなので、この場合は長谷川先生のお話に合った柴山先生が開発された共焦点顕微動的光散乱などを用いて、(多重散乱の影響を受けにくい)表面近傍のみを測定する方法や、低コヒーレンス動的光散乱で評価できる。
”粘性が高い時”は、粒子運動速度が遅くなるので、相関関数の横軸の相関時間(τ)をLOGタイミングで計測できるLOG相関計を用いて、短い相関時間から長い相関時間まで計測する必要がある。
A.1.異方性を持つ粒子の場合、得られた拡散定数が何を示しているのか球とは異なるので、棒状の粒子の場合、偏光特性を見ることにより回転拡散係数と並進拡散係数の両方から情報を得ることが重要だと思われる。具体的な評価については棒状高分子などアスペクト比の高い物質を研究されている方々の論文が参考にしていただきたい。
2.棒状の場合は電場をかけた時に配向する可能性ものもあり、得られた易動度からゼータ電位を求める理論式についても、表面構造などによっては大島先生の理論などを参考にする必要が出てくる場合がある。
A.粒子サイズが小さくなると表面積が大きくなるため不安定になりやすいが、その粒子の表面をどのように処理(保護)されているか、静電相互作用など適度な反発力が制御されているかどうかも分散安定性に影響する。
このため、単純に粒子サイズだけではないが、小さいほうが凝集しやすくなる。
A.粒子径や散乱能(dn/dc)により光散乱の強度(多重散乱の生じやすさ)が異なってくるので、濃度だけでは決まらない。
理論的な最適濃度は記載されていないが、経験的には体積濃度「0.001%」がほぼ最適と考えている。1桁濃度を上げると多少多重散乱が見えてくる場合がある。
動的光散乱法の装置を持っている方であれば、単分散粒子の相関関数の縦軸をLOGをとり、傾きが直線的であれば単散乱で、濃度を少しずつ増加していき多重散乱の影響が出てくると傾きが曲がってくるので、その時点で多重散乱の影響が出たと判断できる。
A.非極性溶媒では測定例が少ない。(非極性溶媒ではイオン電荷はふつう乖離しないため電荷は持っていないのでは?)
凝集のゼータ電位がどのくらいかというのは、大島先生の本にも記述されているが、安定化の重要な境は、「kBT=Zeζ」で表されている。(kBTは熱エネルギー、Zeζは電荷のレベル)
Zが1価の場合は、大体25mVと計算されるので、これより低いと凝集しやすく、高いと分散安定化といわれている。(この値は水系での値で、物によって、系によって異なってくると思われる)
A.低誘電率の有機溶媒中でもわずかに含まれる水分などにより電気二重層は形成されており、その H+かOH- が(粒子に対して塩基性か酸性かによって)どちらが粒子に吸着するかによって電荷は決まる。
このため低誘電率の有機溶媒中でもゼータ電位は測定されると考えている。
ただし、電気泳動速度は極めて遅く、ドップラーシフト量も小さいため、より再現性などを見極めた評価が重要となる。
A.大きい粒子は、ある程度のサイズまで(電圧でリフトもできるので)対応できているが、小さい粒子は、今のところ500nm程度まで見えている。
A.重要な課題。
形状の違う粒子では、明らかに回折像が異なっているが、形まで再構成するにはモデルを想定してどういう光場なのかを計算する必要があるので、再構成は厳しい。
簡単な球がいくつか集まった三角形や四角形を仮定した系は計算との比較できるが、任意の形(例えば凝集体の形)が分かるかというと、大きいものはわからない。
A.粒子数の比と、散乱能の比の両方に依存するため、粒子数より散乱能が著しく大きい場合は、散乱能の大きい成分(大粒子)の情報しか得られないことは起こりえる。
小さい粒子と大きい粒子の情報について、時間差が十分ついている場合(ダブルイクスポーネンシャルに近似できるような場合)は分けることは出来ると思うが、小さいほうの信号がものすごく小さくて、ノイズの影響が無視できないような場合は、評価は厳しいと思われる。
大きい粒子とすごく小さい粒子が混ざっている場合に、小さい粒子が全く見えずに大きな間違いを起こした経験があるので、サイズが小さい粒子が混ざっている場合は気を付ける必要がある
● 「ハイドロゲル微粒子の機能化と界面動電現象」鈴木 大介先生
A.柔らかさパラメータの所以としては、浸透流が深くなるということは、ゲル微粒子のその表面が柔らかくなったことを意味するであろうということで柔らかさパラメータと呼ばれています。
A.条件により、コアがある系でも、ない系でも対応できるようです。
A.詳しくは、大島先生ご執筆の教科書・論文(Ohshima,1994)を参照にしてください。
A.例えば、講演でお示ししたゲル微粒子は基板上でつぶれてしまうため、そのつぶれた影響がでてしまうので、三次元粒子が二次元状につぶれたことを考えないと、水中で求めた値より大きく観測される場合があります。
A.電気泳動のやり方によると思うが、従来おこなわれている第一種電気泳動では同じような結果が得られると思うが、米国などで流行っている第二種電気泳動(強い電場をかける電気泳動)では違う傾向が得られる可能性があります。
A.ゲル粒子なので、大島先生の理論式に当てはめて評価することはいいことだと思います。
テキストに書かれていることとして、電気泳動移動度を測定して、そこからどの式を用いてゼータ電位を求めるか、色々なサンプル形態がある中で水で膨潤したものに対しては大島先生の式、高分子電解質から発展したHermans-Fujitaの式などがありますが、どの式を使って電気泳動移動度を解析するかというのが大事になります。
ゲル粒子のようにすべり面が定義できなくゼータ電位が成り立たない系では、ゼータ電位で議論することは難しいと思います。
● 「銀ナノインクを用いた超高精細配線印刷と散乱計測」長谷川 達生先生
A.大事なところだが、金属錯体から銀ナノ粒子を造る反応は、まだ銀でしか成功していない。
このような組成のバランスが取れた方法を銀以外で出来るかは、今取り組んではいるところ。
A.インクとしては、数の分布としては小さい粒子が多いため印刷は出来るが、よく見ると凝集物の塊が見られて、品質は低下していく。
この凝集は不可逆的です。
A.この銀ナノ粒子は、カルボキシル基とアミン基で保護されている特殊な表面をしており、これを乾燥させると粒子表面のカルボキシル基は残っていると思うが、アミン基は弱いのでどんどん蒸発して無くなっていくため密になっていき、一般的には金属表面は不安定な表面を持っているため、接触することでどんどん融着して形が無くなっていって全部が一体になっていると思っている。
A.大変重要な課題で、Cytopはとても高い素材なのであまり使いたくないが、オクタンとブタノールという一般的な溶媒が使われているが、この4:1混合液は非常に濡れ性が高い溶媒で、どんなに弾きやすい表面でも濡れてしまう特性を持つため、唯一撥水性を持つのがこのCytopであった。
実は化学吸着するかどうかより、光反応性表面を付けていないところを如何に上手く弾くかが、綺麗な細線を作るキーポイントなっている。
A.なぜかよくわからないが、銀ナノ粒子に対して吸着力の強い化学基は何かが問題になると思うが、一番強いと言われるのがチオールで、その次がカルボキシル基で、その次がアミン基。
今の粒子はカルボキシル基で少し保護されて、それより弱い基で保護されている。そこにカルボキシル基があるものがあると、アルキルアミン基とカルボキシル基が入れ替わっていき、化学吸着が生じると考えている。
A.私ではないですが、いろいろ出来ているようです。
● 「高分子の構造解析に有用な小角光散乱法について」牟田口 綾夏
A.完全球晶具合の評価に結びつけることができます。球晶が成長する際、他の球晶と衝突することによって生じる、球晶のtruncation(断裂?)などによって、球晶の形状が球または円から逸脱することによって、球晶の光学的球対称性の破綻が考えられます。
A.スピノーダル分解の中期過程で濃度揺らぎの振幅が増大するとともに、構造が自己相似的に大きくなっている、その構造の大きさ(距離)に相当します。
A.スピノーダル分解については、メチルセルロース系の水溶液を使用している。
このセルロースにはメチル基が付いているため、温度を上げるとセルロースの疎水性が増して50~60℃で相分離が生じる。その過程を光散乱で測定しており、このサンプルおよび測定条件は京都大学 西田幸次先生の論文を参考にしています。
大塚電子では油溶性モノマー同士の混合系での測定実績はないので、柴山先生から助言をいただき、モノマーであろうとポリマーであろうと、水溶性であろうと油溶性であろうと、屈折率の違いがあって、相分離するものであれば観測されるだろうとのことです。
A.大塚電子では、X線回折データとの同時測定データは持ち合わせておりません。申し訳ございません。
● 「DLSをより良く使うために」及川 英俊先生
A.外場、外部環境が変化して、高分子あるいは散乱体の形態・サイズ・形状が変化する様子をDLSで追いかけられるかとの質問だと思うが、変化の速度とDLSでのデータ取得の時間との関係で決まると思われる。
比較的ゆっくり変化していく現象は追いかけることは出来ると思うが、早い反応を追いかけるのは厳しいと思われる。
A.試料の吸収スペクトルや蛍光スペクトル・励起スペクトルを測って、どの波長域に影響が出るのかと、測定する装置のレーザー波長との関係に注意する必要がある。
発光材料については、光学フィルターを入れてカットすることが出来れば可能性がある。
それによって散乱光強度が減少してしまうと難しいところがある。
大塚電子では使用しているレーザー波長に合わせて、散乱光強度の減少が極めて少ない蛍光カットフィルターを提供しており、量子ドットのような発光ナノ粒子向けに専用のレーザー光源および蛍光カットフィルター仕様の装置も提供している。
A.溶媒と溶質の屈折率が近いと散乱し難くなるため、水系だと水に可溶な有機溶媒(ジオキサンなど)を加えて屈折率差を大きくすることで散乱光を強く出来る可能性はある。
しかし、溶媒組成を変化させることにより粒子そのものが凝集したり変化することが考えられるため、その点を十分注意(考慮)する必要がある。
フッ素ポリマーは屈折率が低く散乱強度も弱いためDLS評価することは困難だが、SAXSでは比較的測定が容易なので、方法を変えることも有効かもしれない。
A.非球形粒子でも分散液という3D空間では回転運動をしています。
そのため、通常、DLSでの測定・解析は、ある流体力学的半径(粒子径)に相当する球形粒子と見なされて行われます。
しかし、DLSから得られる粒子径の値は実際の幾何形状とは異なる可能性が高く、電子顕微鏡観察などを併用することをお勧めします。
非球形粒子の極端な例がロッド状・棒状粒子です。この場合、散乱角を変えて測定すると、並進拡散定数と回転拡散定数が評価できますが、単純に長軸と短軸の長さが判る訳ではありません。
また、粒度分布も本来は長軸方向の分布と短軸方向の分布になると思います。
A.測定自体は可能です。
しかし、その解釈は相当複雑で難しいと思います。慎重に行うことをお勧めします。
高分子鎖骨格の可撓性、カウンターイオンの濃度分布(対イオン凝縮)、側鎖イオン性基の解離度と鎖上分布に依存する強い静電相互作用(この相互作用の結果、高分子鎖はほぼ棒状と見なされることが多い)、支持電解質塩からの静電的影響、pHなどの考慮すべき因子が多いです。
DLSを用いた研究も含めて、これまでに高分子電解質についての膨大な理論・計算・実験の論文が出ていますので参考にして下さい。
A.「緩凝集」とは緩やかな凝集・会合体のことと思います。
この凝集・会合体のサイズ(これを粒子径と言って良いかは微妙な問題ですが。)に相当する濃度揺らぎをDLSが検出しているとすれば、元の構成単位のサイズ(粒子径)よりは大きくでます。
ご質問の「測定値」とは粒子径と判断しました。講演で話した事例にもあったように、塩化カルシウムのほぼ飽和水溶液を測定すると、粒子径100 nmと言う結果でした。
おそらく、高濃度下では流体力学的半径が100 nm程度のイオン対クラスターを形成していると推測されます。
● 「光散乱法の基礎と応用/散乱全般」
A.蛍光相関法という手法が知られています。
また、遠心沈降法では透過率の変化を検出します。
A.超小角X線散乱法(USAXS)で観測できる領域は,光散乱法と重複しているので、条件次第では利用可能かと思われます。
A.理論的には可能ですが、非常に微弱なラマン散乱光の時間的なゆらぎを解析しなけばなりません。
研究としての取り組みはあるようですが、市販装置では見当たりません。
A.後方散乱検出:
メリット :市販装置にも採用されており、広く用いられている。
デメリット:多重散乱光を軽減しているが、完全にゼロには出来ない。
低コヒーレンス法:
メリット :理論的に散乱体積を限定(多重散乱を回避)する手法である。
デメリット:専用の光源が必要であり、希薄試料の測定には不向きである。
顕微DLS法:
メリット :共焦点顕微鏡の原理の応用で実現可能である。
デメリット:壁面近傍の試料を測定する際には、Wall-drag効果の影響を考慮する必要が
ある。
A.コロイド粒子に単波長光があたって散乱した時に観測される散乱光のほとんどは、レイリー散乱(光の波長よりも小さい粒子による弾性散乱)もしくはミー散乱(光の波長よりも大きい粒子による散乱)で、どちらも同じ波長です。
A.多重散乱が起こっても波長は変わりませんが、散乱光強度は変化します。
一般的には,希薄な領域では試料濃度に依存して散乱光強度は増加しますが、ある濃度まで上げると飽和に達し、さらに高濃度になると散乱光強度は減少します。
また、多重散乱の濃度は粒子径にも依存します。
粒子径が大きくなると低濃度で多重散乱します。