● 「光散乱基礎講座『電気泳動光散乱の基礎』」木村 康之先生
A.正負のイメージは帯電しているものがどういうものかで知ることが出来る。解離する場合は解離基の性質、吸着する場合は吸着した物質(界面活性剤やイオンなど)の性質を反映しているし、pHなどの影響で電荷が変わる性質も反映している。
電荷の絶対値は、大雑把なイメージでいうと電荷がたくさんついていると大きくなる。
A.粒子径の評価と考える場合、動的散乱法は波長オーダーの領域が最も得意といわれれるため、10μm以上の領域はかなり大きなスケールと考えられるため、回折パターンから評価する方法や、カメラでイメージングしてカウンティングする方法なども検討した方が良い。
A.代表的な考え方として次の2つがあると思います。
一つは、非イオン性界面活性剤の粒子表面への付着が不十分で、元の粒子そのものが持つ負電荷の影響が観測されているケース。もう一つは、非イオン性界面活性剤の特性によるもの。(大塚電子 田中)
A.電気泳動をおこなう際に電解質濃度が高すぎると、電流が流れ過ぎることでジュール熱の発生や、電極部での電気分解反応による泡の発生など、正常な測定を妨げる現象が発生しやすくなります。
市販のゼータ電位計では生理食塩水(~150mM NaCl相当)でも測定が厳しい装置が多いが、大塚電子のELSZシリーズでは1M NaCl相当の電解質濃度での測定実績があります。(大塚電子 田中)
A.炭素粉末でも溶媒に分散していれば測定は可能です。分散していない状態での測定は困難です。
溶媒が水系や極性溶媒系であれば測定は比較的容易ですが、(誘電率が低い)非極性溶媒系や粘度が高い溶媒系では、電気泳動速度が極めて遅くなるため、測定結果の評価が厳しくなる場合があります。(大塚電子 田中)
A.高濃度にする(もしくは希釈する)事により、粒子の表面状態が変化したり、溶媒の環境(塩濃度や添加剤濃度、pHなど)が変化すると、ゼータ電位が変化することはあり得ると思います。(大塚電子 田中)
A.粒子の表面状態が界面活性剤・分散剤の添加により均一になり、分散性が向上している系であれば再現性は向上することが予想されますが、再現性を測定値のバラツキに対する平均値の比で評価されるのであれば、ゼータ電位の値が小さい(ゼロに近い)系ではバラツキはゼロにはならないため、相対的に再現性は低くなることの方が多いです。
添加剤濃度に関係するかどうかは、粒子と添加剤の関係に依存する部分が大きいと思いますが無関係ではないと思います。(大塚電子 田中)
A.ゼータ電位は滑り面を測定してるのではなく、電気泳動によって観測される粒子の泳動速度が滑り面で生じているという前提で評価される物理量がゼータ電位なので、「+」と「-」電荷が表面に混在するコロイド粒子であっても、電気泳動で求められるゼータ電位はその粒子全体での正負の値を示しているためそのまま評価は可能だと思います。
(表面に柔らかい高分子層などがある場合は、大島先生のご講演の通り、滑り面の概念が不確定になるため、ゼータ電位としての評価ではなく電気泳動移動度での評価が望ましいかと思います。)(大塚電子 田中)
● 「電気泳動移動度からゼータ電位の求め方」大島 広行先生
A.外部電場中にある誘電体は必ず分極します。
その結果、(誘電体の分極率α)×(外部電場)で与えられる双極子モーメントをもち、分極電場を作ります。
半径a, 誘電率εrの球状粒子の場合、
α=4π ε r ε oa3
を用いるとHenry理論の分極ポテンシャルの項が得られます。
A.球状の誘電体粒子を考えます。外部電場のない場合、粒子表面は等電位に保たれ、粒子周囲の電気二重層内のイオン分布は平衡にあり球対称分布をしています。外部電場が加えられると、外部電場および粒子の分極により、粒子の表面は等電位でなくなり、表面に沿ってイオンの移動による表面伝導が生じ、表面電流が発生し、粒子表面を等電位に戻そうとします。このとき、粒子周囲の電気二重層は平衡から外れ球対象ではなくなります。粒子の電荷の重心と周囲のイオンの電荷の重心が一致しなくなり、電気二重層の分極が起こっております。平衡分布からずれたイオン分布は元の平衡分布に戻ろうとします。これが電気二重層の緩和効果です。上記の3つの効果はすべて同一の効果に対する異なる呼び名で、現象は同一です。この効果のために、粒子の電気泳動速度は遅くなります。この効果は粒子のゼータ電位が低い場合は小さく無視できます。つまりゼータ電位の低い場合は、イオンの平衡分布(球対称)は保たれ、表面伝導、電気二重層の分極、緩和効果は無視できます。しかし、ゼータ電位が高くなると、この効果が顕著になり無視できません。
A.剛体粒子の電気泳動移動度は、すべり面の電位であるゼータ電位に比例しますから、剛体粒子ではゼータ電位は非常に重要な量です。高分子電解質の表面層で覆われた柔らかい粒子の電気泳動移動度の一般式にも、この電位は登場します。しかし、多くの柔らかい粒子の場合、表面層の厚さがデバイ長より十分厚く、このような場合、電気泳動移動度の式からすべり面の電位(ゼータ電位)が消失してしまいます。そのかわりに、ドナン電位と表面層の先端の電位(柔らかい粒子の表面電位とよぶ)が重要になります。この意味で、柔らかい粒子の場合、ゼータ電位は意味を失うと言えます。
A.前半のご質問は前問の回答をご参照ください。柔らかい粒子の場合、表面層の先端の電位が柔らかい粒子の表面電位になります。この電位はドナン電位(表面層深部電位)そのものでなく、低電位の場合はその半分の大きさになります。
A.Debye-Buecheモデルに登場するセグメントは一般にクーン長程度の長さに含まれる複数のモノマーから成ると考えられます。セグメント1個あたりのストークス抵抗係数はセグメントの半径apに比例し、セグメントの数密度Npはセグメント半径の3乗に反比例するので、抵抗係数γ=6πηapNpはモノマー1つをセグメントとみなすと結果は変わります。
A.半径aの液滴の電気泳動移動度の式で、液滴の粘度hdをゼロと置き、さらに、粒子に働くストークス抵抗と電場からの力がつりあうka →0の極限を考えます。この結果、気泡に働くストークス抵抗を4πηaUとしたときの電気泳動移動度が得られます。
A.粒子の電気泳動移動度を電解質濃度の関数として測定し、高電解質濃度(1価の対称型電解質の場合0.1M程度以上)において電気泳動移動度がほぼ一定値を示す場合はこの粒子は柔らかい粒子と考えられます。剛体粒子では、高電解質濃度でゼロに近づきます。
A.柔らかい粒子は表面が高分子電解質等のソフトマターの表面層で覆われた粒子です。表面層で覆われていても、表面層が薄い場合は剛体粒子の挙動に近い挙動を示します。高電解質濃度の関数として電気泳動移動度を測定し、粒子が柔らかいか剛体なのか判断する必要があります。ミセル、リポソームの場合、表面構造が無視できるならば剛体の挙動を示すはずです。ハイドロゲルやタンパク質あるいはこれらの物質で覆われた粒子の場合は柔らかい粒子の挙動を示すことが期待されます。
A.大きく変わります。同じ電気泳動移動度でも、Smoluchowskiの式から20mVのゼータ電位が得られた場合、Hückelの式では30mVになります。ゼータ電位が高い場合(50mV以上)では、緩和効果を無視すると、誤差が大きくなります。液滴や柔らかい粒子を剛体粒子とみなした場合では、さらに差が大きくなります。柔らかい粒子の場合は次の質問の回答もご覧ください。
A.たとえば、0.1 Mの1価対称型電解質水溶液中(25℃)において、Z = -1, N = 0.01M,1/λ=2nmの柔らかい粒子の電気泳動移動度は-0.8 μm/s/V/cmになり、表面電位は- 1mVです。しかし、Smoluchowskiの式を適用しますと、表面電位(ゼータ電位)は-10mVになり、大きく異なります。
A.粒子表面の正味の電荷が負であっても、局所的には正負の帯電領域をもつ異方性粒子の場合でしょうか。この場合、1次粒子が凝集して2次粒子をつくり、その結果、正に帯電した領域が粒子表面に露出した可能性があります。この見かけ上正に帯電した2次粒子の電気泳動移動度を観測していることになります。
A.通常の電気泳動移動度の理論は電解質水溶液中あるいは有機溶媒中の粒子の泳動速度の解析を目的としております。したがって、多量のアミノ酸等を含む培地中における電泳動速度移動度の測定値の解析は通常の理論では難しいと思います。しかし、最近、電解質溶液のかわりにゲル媒質を含め単純な液体でない媒質中における帯電粒子の電気泳動を対象にした理論が登場し発展しつつあります。このような理論を用いて、多くの成分を含む培地中の電気泳動の解析が可能になることが期待されます。
A.粒子の電気泳動移動度を測定し、その値からゼータ電位または電荷を計算する場合、まず、その粒子が剛体粒子か液滴か柔らかい粒子かによって解析する式が異なります。次に、形状が球か円柱状で解析する式が異なります。球と円柱以外は楕円体や円板等の式が提出されてます。さらに、電解質濃度に大きく依存します。表面が多相構造をもつ複合粒子の場合、剛体粒子であれば、最外層の物質の性質が最も強く反映されます。粒子表面にイオンが浸透できる場合は、柔らかい粒子の扱いが必要になります。
● 「温度勾配がある系におけるレーザ干渉法を用いた分子拡散測定」喜多 理王先生
A.尿素のSTの測定結果があります(Figure 5 in Biomacromolecules 7, 435-440 (2006))。これをみると、尿素のSTはすべての温度域で正の値であり、デキストランのSTの温度依存性とは異なっています。
A.STの測定は、水分子がつくる水素結合ネットワークの形やクラスターなどの情報を直接には与えません。他の測定手法によると、水素結合ネットワークは時々刻々と形を変えるダイナミックなものです。このような水分子が糖類と相互作用して糖類が負のSTを示すことの分子論的機序はまだわかっていません。分子レベルでの水和構造や相互作用、さらに熱力学的な効果を含めて解釈する必要があると考えています。面白いのは、糖類のSTの値は、このような水素結合の影響に非常に敏感だということです。
A.負のソレ―係数の物理的意味は、温度勾配があると、生体高分子が温度勾配の高温側へ拡散するということです。これは、エネルギー的な相互作用の効果に加えて、エントロピーの効果が無視できないことや、さらに水和構造の温度による変化などが複雑に影響しているため、と考えられます。
A.気体や単純液体において溶質成分のソレ―係数が正になることのひとつの理由は、おっしゃる通りの解釈が当てはまる場合が多いと思います。ただし、コロイドや高分子などの複雑な系では、熱運動を特徴づける平均速度のような単純な因子だけでは説明できないことが多いです。
A.水の運動性は、プルランのStに影響を与えるひとつの因子と考えらえれますが、T1がジャンプするところで正負逆転が必ず観察されるわけではありません。例えば、他の分子量のプルランを用いた研究から、Stの正負が逆転する温度には分子量依存性があることが分かっています。
● 「刺激応答性ヒドロゲル微粒子の開発に必要な評価技術」 鈴木 大介先生
A.今回使用したゲル粒子の場合は、架橋密度が不均一なため、いろいろなメッシュサイズがあると思われるが、測定から求められるのは平均値で評価している。
実際にはいろんなサイズが存在していると思うが数値評価は出来ていない。
A.散乱光の絶対強度を意味している
一つ一つの散乱強度は散乱断面(長さの二乗)に当たる確率であらわすことができる。
実際にはたくさん試料中にあるため、体積を濃度で割った体積濃度(長さの三乗)で評価する必要があり、体積濃度(長さの三乗)で割った散乱確率(長さの二乗)ということで、結果的に長さのマイナス一乗ということで、(cm-1)で表現される。
光散乱ではレーリー比、X線や中性子散乱では絶対散乱強度
● 「水溶液中のDDSナノ粒子の散乱法による構造解」 櫻井 和朗先生
A.大体のアトミックスケールを見るには、単分散系に対して丁寧に測定すればある程度は可能だと思う。
A.分子分散している有機溶媒中で単分子の分子量を求めておいて、水中の会合体の分子量を求めて、単分子の分子量で割ることで会合数は求められる。
A.超音波処理等で消すことが出来るかもしれないが、二次凝集体を消して評価したものが、実際の製剤として使用した系と同じかという問題が出るため、基本的には消えない(消さない)で評価する。
● 『光散乱法の基礎と応用』及び光散乱全般、柴山先生、佐藤先生、岩井先生、木村先生
A.デバイ長(1/κ)は、測定から求めるのではなく、式から計算される物理量です。たとえば、今年の散乱研究会テキストの2-8頁に、その式が記載されています。
A.DLSに限って述べると、教科書にも書いてあるように、周波数解析の場合では周波数シフトが小さすぎて精度あるダイナミクス測定は出来ません。一方、自己相関関数による解析ではサブナノ秒から数千秒という広いダイナミックレンジがとれるため、溶媒中の小さな分子のダイナミクスから、高分子メルトや高粘度媒質中の粒子の運動などのダイナミクスの観察が可能です。
A.光散乱法の将来:光散乱は非接触・非破壊型の測定法で、かつ簡便であることが特徴です。今後、さならる技術革新により、ますます手軽に高精度測定が出来るようになると思います。一方で、これまで苦手としていた濃厚系に対応するため、光ファイバーを使った後方散乱測定などが発展するでしょう。また、顕微鏡ステージに光散乱装置を組み込むことで、位置検出型光散乱法の開発がすすみ、場所によって構造やダイナミクスが異なる生物試料などへの応用が進むでしょう。一方で、これまで熱揺らぎを観測する受動測定だけでなく、試料系に揺動や刺激を与えて、その応答を観測する能動測定も発展するでしょう。