● 光散乱基礎講座「動的光散乱法」則末 智久先生
A.はい、同等の結果が得られるとの認識でよろしいです。拡散波分光(DWS)法により強制的に多重散乱を引き起こして測定します。相関関数が落ち切ると液体的、相関関数が落ち切らないと固定的であることを利用して、複素粘弾性を算出します。
なお、硬過ぎるものは相関関数が落ち切らないため測定出来ません。
A.はい、異方性の解析が可能です。実際には、偏光解消動的光散乱法を用いることでロッドの太さや長さが評価できます。
A.市販装置では開発時に標準的な物質を測定した検証がなされていますので、少なくともそれらの測定には信頼できると思います。
A.1.はい、その通りですが、その通りにならない場合もあります。例えば、凝集体内部からの多重散乱などを含むと結果が異なります。
2.通常DLSと同様に強度の自己相関関数を測定し、解析にはゲル解析に用いる部分ヘテロダイン法が用いられます。
3.場合によってはあり得ます。可能性がある場合には定常状態を確認するか、変化の動力学を速度論的に解析されるのをお勧めします。
A.基礎研究の試料であれば、フィルタ濾過をしてダストの影響を排除した測定すべきです。工業的に合成された試料であれば、小粒子と大粒子の差異がかなり大きいのであれば、十分な個数のアンサンブルを取れるように測定の積算を増やした測定が良いと思います。
A.はい。装置の都合で拡散係数が表示できないなら、粒子径の逆数をプロットすれば同じことなので、結構かと存じます。数十%というのは濃度0外挿にはかなり遠いですが、おおよそおっしゃる通りで正しいです。
A.本講義でご説明したように、DLS測定には散乱ベクトルqを使います。溶液中のqの計算に屈折率が必要なためです。これにより溶液中のレーザーの波長を求めることなく、真空のレーザー波長の情報だけを使って実験していただけます。なお、DLSで粒子の屈折率は不要です。Mie散乱に基づく静的光散乱プロファイルを解析するレーザー回折で、粒子の情報を求められているのかもしれません。
A.この振動は、装置の電気ノイズの不良、もしくは特定の方向に直進的に動くことで観察されます。前者は装置が正常なら該当しないと思います。後者はブラウン運動のようにランダムではなく、極端に大きな粒子の沈降、泳動、乱流などが原因と考えられます。また非常に大きな粒子を測定しているため、相関関数が落ち切らない場合に起こるかもしれません。非常に面倒ですが、平均数を稼ぐと解決するはずです。
A.1ms程度の緩和時間で粒子が動いていればそれは周波数に直すと10^3Hzです。光の振動数は10^15Hz程度なので、このシフト値はほぼ無視できます。差分のみを検出するなど、優れた検出器と解析システムの構築を行なった上での話ですが、移動が速い物体、波動の位相速度が遅い場合にはドップラーシフトを解析すれば良いと思います。泳動測定で用いられるヘテロダイン方式の装置は、運動の緩和時間を運動の周波数に変換して、スペクトル表記したピークから解析しています。
A.ゲルの運動は凍結されているため、ゲルの物性を平均する際、さまざまな試料位置をサンプリングします。具体的には試験管を回転したり上下して測定を繰り返す必要があります。これをアンサンブル平均と呼びます。本当に固体であれば強度相関関数は2が続きます。もし固定位置で時間平均だけを取った場合には、見かけ上相関関数が強制的に1に規格化されます。ゲルは液体と固体の中間なので、アンサンブル平均の強度相関関数は2からある値に収束、時間平均の相関関数は1より大きな値から1に収束します。
A.球として近似せずに、正確な測定を行いたい場合には、静的光散乱、小角X線散乱、小角中性子散乱を使ってください。多分散指数は、「粒子径の平均の二乗と、二乗の平均の差」の値を求めているに過ぎません。よって、単分散の二峰性と、単峰性のブロード分布かは判別できません。ちなみに、平均を1次のモーメント、多分散性は二次のモーメントと呼ばれます。二峰性の情報や、分布の詳細は、3次と4次のモーメントで求まります。
A.はい、散乱強度が重みつけされた平均となります。希薄系では緩和時間(粒子径)は大粒子に引っ張られます。濃厚系では緩和時間は引っ張られますが、配合比率は数で決まります。
A.ピンホールの大きさは有限で、ある程度絞り込んでも入射光が干渉してコヒーレンスパラメータが低下してしまいます。しかし、ファイバーで直接運ぶとその効果を最小化できます。
A.静的光散乱法でより広角側まで分子内干渉因子を測定すれば識別可能です。
A.ブロックコポリマーの溶液なら運動性に制限を受けていないので、ゲルとは違います。ただし、ブロックコポリマーからなるゲルの場合同じことが起こります。また、ブロックコポリマーの場合は、組成の揺らぎが観測されると思います。アルコキシドが1つの粒子なら、架橋体粒子の並進拡散が観測されます。
A.ラテックス粒子などの標準サンプルで問題ないなら、サンプルの特性だと思います。上の方にも繰り返し再現性のご質問がありましたので、ご参照ください。
A.条件を明記した上でお好きなところをお使いいただいて結構ですが、等電点から遠い安定なpHで、ある程度のイオン強度で安定化させてかつ凝集しないほどのイオン強度が良いのではないでしょうか。
A.AAVが何かを存じ上げませんが、低粒径の精度が必要なら積算測定をされてはいかがでしょうか。2つ目ですが、その解析では球状粒子を想定されているのではないでしょうか。その場合の流体力学的半径は、粒子の半径ではないです。球でない場合には別のモデルを使って計算し直す必要があると思います。
A.定義はありませんが、緩和時間の少なくとも10倍、できれば100倍確保されると良いと思います。
A.波動のイメージを持っていただくために、私の研究分野の超音波パルスの動画をお見せしました。音波は疎密波、すなわち縦波ですが、横波も出すことができます。ご指摘の遅い波は、電磁波と同じ横波成分です。地震のP波とS波と同じで、約2倍の時間で到達します。
● 「動的光散乱法の弱点と対策」廣井 卓思先生
A.1.SLSに関して言えば、「使用レーザ光の波長より小さい情報を得られない」が定性的には正しいです。静的散乱の場合、散乱の角度依存性を利用するため、小さい方は波長オーダーの構造しか得ることは出来ません。大きい方については、小角散乱を用いれば波長より桁違いに大きいサイズの対象物でも測定可能です。
DLSに関しては、強度ゆらぎを観測しているので、波長より小さい(数nm程度の)粒子の大きさを求めることが出来ます。DLSで測定可能なサイズの上限は、ブラウン運動しているかによって決まります。例えば、10 µmの粒子であっても沈降せずにブラウン運動を観測できれば測定可能ですし、逆に100 nmの粒子であっても短時間で沈降するような粒子は測定が難しいです。
2.散乱はより一般的な用語で、回折は散乱の一種です。通常、結晶のように周期的な構造を持ち、散乱プロファイルに鋭いピークが見られるような場合に回折という言葉を使います。
A.顕微DLSと通常のDLSは、濃度範囲で見ると相補的な関係にあります。顕微DLSは、ポリスチレンビーズ分散液の原液など、通常のDLSで測定不可能な濃度を測定可能ですが、被照射体積を絞っているため、散乱強度が弱い希薄条件は苦手です。例として、直径120 nmのポリスチレンビーズ分散液の場合、0.05%が顕微DLSの下限かつ通常のDLSの上限でした。ポリスチレンは水との屈折率差が大きいために白濁が強いですが、例えばシリカのナノ微粒子分散液は白濁が弱く、10 %以上の濃度でも通常のDLSで測定が可能なものもあります。
A.本質的な点は、共焦点光学系を用いて、被照射体積以外で散乱された光をピンホールによって光学的に除去する点です。加えて、光路長をマイクロメートルオーダーに抑えており、さらに被照射体積も(共焦点効果のおかげで)小さいため、多重散乱や吸収の影響を受けにくいということもあります。
A.動的ラマン測定では、非線形光学過程であるCARSを用いています。非線形光学過程は、入射光強度に対して散乱光強度が非線形に増加します。今回我々が用いた位相不整合CARSの場合も、波長の短い方のレーザー光強度の2乗に比例して散乱光が大きくなります。そのため、瞬間的に強い光電場となるパルスレーザーを用いています。今までに報告されているCARSのほとんどが、パルスレーザーを用いています。
A.(均一網目構造だと散乱光強度が弱すぎて測れないという懸念もありますが、)数十µmの試料であれば、一般的には顕微鏡下で測定ができると思います。1つのゲル粒子内での均一性をどのように評価するかは、標準的な考え方がないので難しいところですが、1つのゲル粒子の様々な点を測定することは、原理的には可能です。
A.光路中にロングパスフィルター、ショートパスフィルター、および分光器を入れています、加えて、一般的にラマン散乱において問題となる光に蛍光がありますが、用いているCARS光は入射光より波長が短いため、蛍光の影響は一切受けません。
A.現時点では。位相不整合CARSの強度が弱いため、0.5 wt%程度の濃度でないと信号が得られないという問題点があります。DLSで測定するような0.01 %以下の濃度に動的ラマン散乱を適用することは、現時点では不可能です。
A.一般的に位相整合条件は厳しいですが、位相不整合条件は何も考えずに二色のパルスレーザーを空間的に重ねるだけですので、位相整合条件よりは簡単です。(パルスレーザーなので、時間的な重なりを取る必要もあります。)動的ラマン散乱装置では、一番簡単なアライメントとして、二色のレーザーを重ねて対物レンズに入れ、後方散乱CARS光を検出することにしています。
A.ノイズが出ない時間帯では、通常の動的光散乱と同様の測定となります。得られた時間相関関数をCONTIN解析することによって、粒径分布を得ることもできます。なお、得られる粒径分布は散乱光強度で重みづけされたものであり、通常は粒径の大きいものが強く検出されやすい傾向にあります。測定にあたって注意すべき点がなくなることを意識して開発したシステムですが、あまりに大粒子(ブラウン運動しないような大きさの粒子)が多い系だと測定できません。また、大粒子の粒径は得られません。
● 「中性子小角散乱法を用いたソフトマターのナノ構造解析」眞弓 皓一先生
A.無機物と有機物が混合した系に対して、X線散乱を用いると電子密度の高い無機物の構造が見えて、有機物の構造情報を取り出すことは難しいです。一方、中性子散乱を用いると、無機物の存在下における有機物の構造を観察することができます。無機物が消えて、有機物だけが見えるコントラストにすれば、例えば、無機粒子に吸着した高分子の層を観察することができます。散乱プロファイルを解析すると、吸着層の厚みや、吸着層中の高分子濃度などを算出することができます。吸着層の厚みから、高分子の形態を類推することも可能です。
A.SANS-Uの検出器は飛行管の中にあり、飛行管の長さが16mであるため、最長のカメラ長は16mになり、この場合、1.5 × 10^(-3) Å^(-1)程度が小角側の限界になります。さらに大きな構造を観察するためにlow-Q側にアクセスしたい場合は、SANS-Uでは集光レンズを使い、さらにピクセルサイズの小さい高分解能検出器を使うことで、4×10^(-4) Å^(-1)程度までカバーすることができます。
A.溶液の場合、溶媒がH2OかD2Oかで溶質の中性子に対するコントラストは大きく変わります。溶媒がH2OかD2Oかで、溶質の構造は基本的にはほぼ変わらないことが多いと言われています。
A.コントラスト変調SANSを使えば、顔料に吸着している高分子分散剤の構造を観察することが出来ると思います。例えば、高分子吸着層の厚みや吸着層の高分子濃度などを見積もることができます。
A.コントラスト変調SANSを使えば、金属に吸着している有機物の構造を観察することが出来ると思います。例えば、有機物が形成する吸着層の厚みや吸着層の有機物濃度などを見積もることができます。
● 「蛍光相関分光法の開発と発展」金城 政孝先生
A.蛍光色素濃度 1 nM、測定周波数 30 kHzで行っているため、早い時間ではフォトン数が稼げないためです。相関関数を表示する装置がマルチプルタウ方式を使用いているためでもあります。
A.燐光の検出は基本的に難しいです。何故なら、燐光寿命が長いため、拡散時間内に分子が領域から出ていくことが想定されます。燐光発光する分子で測定を試したことはありませんが将来的な課題と考えます。
A.励起光側に偏光子、検出側に検光子を用いて測定しています。いわゆる偏光解消測定となっています。原理的には励起側に偏光子はなくても可能です。
A.界面での並進拡散測定であれば、これまで全反射光学系を用いた測定報告があります。同じように回転拡散の測定も可能かもしれません。ただし、質問にあります高分子表面がどのようなものかのか不明ですが、ここでは蛍光測定を想定していますので、励起光を導入するための工夫がおそらく必要となります。
● 光散乱全般 世話人会
A.継時変化する試料の測定では繰り返しの測定して確認が必要です。散乱強度不足が原因であれば積算回数を増やすことが有効です。相関関数が十分に終息していない場合は、計測時間を長くすることが有効な場合もあります。
A.ゲルの場合には、自己相関関数の初期値はかなり低いです。これは装置の問題ではなく、空間的な不均一性に由来する統計的な問題です。相関関数の高さは、PSラテックスなどの希薄標準試料で確認してください。その上で変動するのは、試料に依存したものであると考えられます。
A.1.世話人会による教科書(光散乱法の基礎と応用、講談社、2014年)に記載されています。より詳しい理論は、吉崎先生と山川先生による著書(Helical Wormlike Chains in Polymer Solutions、 Springer Nature、 2016) に記載されています。
2.粒子の粒径よっては影響しうると考えられます。
A.実験的に会合体を除くのがベストです。それが出来ない場合には、PFG-NMRやX線散乱や中性子散乱を用いた測定を併用することが有効です。
A.世話人会による教科書(光散乱法の基礎と応用、講談社、2014年)や新高分子実験学1巻 高分子実験の基礎――分子特性解析、6巻 高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 共立出版(株)などに記述がありますのでご参考にしてください。
A.濁りの原因は光の多重散乱ですので、サイズとその成分の濃度から特定可能です。濁った溶液のその場測定は通常のDLSではなく、低コヒーレンスDLS法、顕微DLS法、クロス相関DLS法などをお使いください。またゲル成分にご興味がある場合は、おっしゃる通り、部分ヘテロダイン法による散乱強度の分離展開が有効かもしれません。そうすれば不溶解分をゲル的構造と捉えられるかもしれません。
A.繰り返し測定した際の個々の結果が安定に得られているなら、ビームを照射している空間(散乱体積内)を、取り組んでおられる測定時間の範囲で平均化されているはずです。微妙にというのが1%の違いか、10%の違いかの程度をお聞きしないとわかりませんが、試料の問題と、測定条件の両方の問題が考えられます。試料の安定性は変えられないので、代わりに複数回測定してください。測定の問題は積算回数やビームの強さを変えてみてください。粒子径分布の形を議論するには、相関関数が90%ほど減衰し切ったあたりでも十分な精度のデータが取得できているかが鍵になります。十分な精度になるように積算されれば、可能だと思います。
A.粒子径測定が困難とおっしゃるのは、一般的な測定と違って信号が安定しないと思われるためでしょうか。それともビームが通らないからでしょうか。前者の場合は、相関関数を長い緩和時間まで取得してください。サンプリング時間とサンプリング点数を長くとります。また測定時間はかかりますが、長時間測定した分だけ良くなります。後者の場合は、希釈するか、濁った溶液のその場測定は通常のDLSではなく、低コヒーレンスDLS法、顕微DLS法、クロス相関DLS法などをお使いください。
A.サイズやバラつきにもよりますが、電子顕微鏡観察と小角X線散乱から試していただくのが良いかと思います。
A.(散乱測定に関するものではないため参考までに回答いたします)
超音波ホモジナイザーを使う場合、可能であればパルスモード等を使って熱を蓄積しないように注意しながら処理すると良いと思います。ナノ粒子では長時間処理が必要な場合もありますが、より径の大きなプローブを使うと、磨耗しにくく、処理のスピードアップが可能です。界面活性剤や高分子立体障害安定剤は、試料に応じて適切な濡れ性(界面張力)になるようにお選びください。また大きさが極端に違う場合で、濾過分離できるぐらい少量であれば、小さな粒子は損失になるので別途分けて、大きな粒子をハイパワーで分散せてはいかがでしょうか。