● 光散乱基礎講座「電気泳動光散乱の基礎」木村 康之先生
A.DLSもELSも自己相関関数を取得している点は同じです。
粒子径のみを求めるのであればDLSでよろしいかと思います。
一方、動いていることで電気二重層が引きずられる効果がある場合には、ELSでの測定が有効な可能性もあります。
A.帯電量の絶対値が異なる場合は引き付けるイオンが異なるため、違ってくる可能性はあります。
周囲のイオンの効果を考慮した流れ場の解析があり、大島先生の本でも述べられていますが、
周囲のイオンの量が増えると移動度が変化する場合があります。
A.定義としては、粒子と一緒に移動する層を指します。
流体力学的半径は粒子が流体中で移動する時の実効的な大きさですので、顕微鏡などによる幾何学的粒子径とは異なります。
溶媒が変わればイオンの状態も変わりますので、変わる可能性はあります。
A.デバイ長を考える場合は周囲のカウンターイオンは大きさが無視できる点電荷を仮定しています。
高分子やコロイド粒子の場合は大きさが無視できず、かつ個々の電荷が自由に動けないのでその拘束も考える必要があり、より複雑な議論が必要です。
A.ゼータ電位の測定は周波数の測定です。よって、スペクトルピークがどの位置かということです。
その中の幅は拡散によるものですので、スペクトルピークの幅と分離することは通常困難です。
A.粒子間の距離は常に揺らいでいますので、ある瞬間には粒子同士が近づくことになります。
そのためいずれは凝集する方向に進みます。確率論になりますで、ある一定の時間では安定しているとみなせる場合もありますが、無限時間を考えると必ず凝集することになります。
A.影響を受けます。電場を非常に大きく掛けると、ジュール熱により気泡が発生する場合があります。
A.ELSにはサイズの情報とゼータ電位の双方を同時に測定可能であり、低濃度までの測定が可能です。
超音波法は比較的高濃度の測定に向いていますが、低周波数の測定であるELSと異なる結果を示すこともあります。
流動電位法は粒子が移動しない場合には有用な方法です。
A.焦点を物体より下に設定して、ホログラム画像を撮影します。
レーザーを用いればより精度の良い測定が可能ですが、コヒーレンス長が長いために、セル表面にあるゴミ等のホログラムも重なるために、これらがノイズになる可能性があります。
紹介した方法は入射光と回折光を同一方向から観測しているため、明視野照明の条件で測定しています。
A.回折現象を用いているので、粒子のサイズが小さくなると回折光が広がり、強度が下がるためにバックグランドに対するS/Nが悪くなることが予想されます。
また、示した分解能は再構築法を用いた場合の精度であり、再構築するセルの最小サイズに依存しています。
球状の場合には理論的な式が存在し、これにフィッティングするとさらに1桁程度精度が向上します。
A.スペクトルの形状は拡散(大きさの分布も含めた)による広がりと移動度の広がりによるものです。
正に帯電しているものがあれば、そのゼータ電位を反映した場所にピークが現れるはずです。
A.(大塚電子より回答)
高塩濃度(0.5M NaCl)
海水ぐらいの高塩濃度(NaCl換算で0.6M相当)の測定経験はあります。電流値が高いため電圧を下げて(ELSZ seriesでは60Vを30Vに設定)測定します。電気分解による気泡の発生があるため、繰り返し測定の場合は試料溶液を入れ替えてください。
7M尿素
尿素は非電解質のため尿素溶液の電気伝導度は低いと考えられるので測定は問題ないと考えられます。
ただし、使用溶媒が緩衝溶液系である場合には、その他の電解質濃度に依存します。
また、高濃度の尿素溶液は粘度が高くなるため、粘度計で溶媒粘度を測定することをお薦めします。
さらに、尿素溶液は析出しやすいため試料交換時にはセル内に結晶がないこと確認し、測定後は分解洗浄をしてください。
● 「多成分、光吸収、濃厚分散粒子系に展開する動的光散乱」中村 崇市郎先生
A.用いた粒子は狭いながらも粒子径分布を有しているためにその角度依存性が見られた可能性と、不純物や装置の影響など実験上の不確かさに由来した可能性が考えられます。
A.Rayleigh散乱領域では等方散乱となりますが、今回のご紹介した研究では、角度依存性だけではなくDLSの拡散係数も測定しています。拡散係数のほうが粒子径分解能が高いため、散乱プロファイルのみよりも粒子径測定の精度も向上します。Rayleigh散乱領域での粒子種の違いの識別には、角度依存ではなく、屈折率やその波長依存性に差があれば波長依存を用いることが有用です。
A.混合は、散乱強度が同等になるような比率で行っています。後方散乱測定に限らず、少量混じった大粒子に粒子径が引っ張られることは散乱強度の強さから自然なことです。ただし、検出角度によりMie散乱が局所的に弱まる場合もあるので、角度依存性を確認してみる価値はあります。
A.諸条件で変わるため、一言でお答えすることができません。低コヒーレンス動的光散乱法に限らず、動的光散乱の測定濃度上限は、粒子径と装置条件に依存します。この点が市販装置のカタログ等にもあまり掲載されていません。紹介した低コヒーレンス動的光散乱装置では、通常数10から数100nmの粒子の分散液の場合、15~20%の試料を問題なく測定しており、これ以上の濃度でも光学的に問題なく測れます。装置の視点では、限界濃度は、光散乱の平均自由行程~光源のコヒーレンス長となる濃度で決まります。なので、ナノ粒子でなく、マイクロメートルの大きい粒子系を扱う場合はコヒーレンス長の狭い光源を使う方がよいです。
なお、粒子濃度が高い状態では拡散運動は共同拡散となるため、粒子径の絶対値を議論したい場合、その影響を考慮する必要があります。
同一サンプルで濃厚な状態から希釈することによって粒子径分布が変わる例としてはインクが挙げられます。濃度15%から0.15%に希釈するにしたがって、粒子径分布が変化します。今回の研究会テキスト、もしくは「光散乱法の基礎と応用(講談社サイエンティフィック)」に掲載していますので、ご確認ください。
A.磁性粒子は互いに引きつけあうため、凝集しない状態で評価することが難しいです。光学的条件を見直すよりも、分散材など処方的アプローチ、物理的にサイズで分けるなど試料前処理を検討する他、電子顕微鏡やX線など他の手法も検討されるのが良いかと思います。
A.SEMは真空中の結果でしょうか?分子量によって程度が変わりますが、液中でタンパク質などが膨潤して広がる結果として、DLSではサイズが大きくなります。DLSは流体力学的径なので、幾何学径であればMie散乱により単純球で近似した粒子径として定量したほうがご希望の値に近づくと思われます。
A.平均自由行程は、散乱が1回だけ生じる光の伝搬距離のことで、これ以上に長いと多重散乱の成分が混入します。つまりDLSにとって理想的な単散乱だけの生じる、抽出すべき光路長のことです。
後方散乱係数は、入射光からみて後方にどれだけ強く散乱されるかを表す係数で、値が大きいほど強く散乱されることを表します。開発した低コヒーレンス動的光散乱法測定装置では後方散乱光を測定しているため、後方散乱係数が大きい方が得られる信号強度としては大きくなります。
これらの値は波長に依存して変化します。互いに関係する物理量でありますが、Mie散乱で角度依存が生じるため、極値の位置は異なります。
A.光吸収はDLSの測定時間の数十秒から数分に対して非常に短い時間で生じます。これが熱エネルギーにまで変わる時間 (熱失活)も短い (一般に100ピコ秒~ナノ秒)です。光吸収DLSによる拡散係数の変化は再現性があるため、一種の定常状態に達していると考えていますが、熱対流や熱泳動など流体的学的なマクロスコピックな運動効果も生じるため、その効果が光の照射時間に依存する可能性もあります。実際に何が起きているか今後確かめていく必要があると思います。
A.多重散乱については、静的光散乱でも生じます。静的光散乱の場合、濃厚試料で多重散乱が生じると、Mie散乱でみられる前方散乱の傾向が消失して等方散乱になります。また、界面近くではセル界面の反射光や凹凸による散乱光が混じるため、それらの強度の強さによっては粒子による散乱光が埋もれてしまいます。
界面異常は固液界面でのブラウン運動抑制によるものです (wall-drag効果)。固体表面の濡れ性、多孔質や凹凸などの表面状態についてその影響を検討することは技術的価値があると思われますが、セル形状を四角から円形にすることではこの効果は変わらないです。
● 「散乱による水溶性高分子の会合挙動の評価」遊佐 真一先生
A.高分子電解質を用いていますので、静電反発を抑制するために0.1M程度の塩化ナトリウムを添加しています。
pHの調整は、塩化水素や水酸化ナトリウムの水溶液を用いていますが、塩濃度を変化させたいために、予め0.1Mの塩化ナトリウムを加えて用いていました。
A.酸性でベシクルは崩壊しますが、同時にカチオン性高分子の放出と、コア-シェル型ミセル形成が起こります。
この際、ゲスト分子の一部は高分子ミセル等と相互作用してしまい、完全にフリーな状態での放出を行えない状況になっている可能性があります。
A.こちらはMPSでななくMPCでしょうか。MPCは細胞膜の最表面を構成するホスホリルコリン基と同じ構造を高分子側鎖に持つため、生体適合性が高いことが知られています。
具体的には、水分子を保持しやすく、それがクッションとなりタンパク質が吸着しにくくなることが生体適合性が高い理由です。
A.溶液の粘度は、溶媒と変わらないと仮定して測定しています。
測定対象高分子の濃度は通常0.1 ~10 g/Lの範囲で測定します。
これくらいの濃度だと、粘度はほぼ溶媒の状態と同じです。
A.対象物の水溶液をTEMのグリッド上に乗せて、キムワイプのこよりで吸い取り、さらにリンタングステン酸ナトリウムで染色して、十分乾燥してからTEMを測定しています。
A.DLS測定は希薄な条件で行っているため、測定装置に予め記録されている溶媒の粘度をそのまま使用しています。
A.どちらかというと会合してない場合の方が粒子径が小さすぎたり、散乱光強度が低すぎて難しい場合が多いのに対して、高分子間の会合体は、一般的に粒子径が大きく、散乱光強度も強いので、動的光散乱は測定しやすいと思います。ただ、会合性が強すぎて経時的に沈殿するサンプルなどは測定が難しくなります。
A.今回の講演ではトピックスの内容と時間の都合上紹介しませんでしたが、細胞毒性や細胞内への取込実験を行った研究例はあります(Langmuir 2018、 35、 1249-1256.)。
細胞毒性はありませんでした。また、今のところ動物実験は行っていません。
A.ベシクル構造は中空構造で、内部(空孔)と外部(外水相)を高分子の会合で形成された膜で隔てられた構造をしています。
この膜は水などの低分子は自由に出入り可能です。したがって、TEM観測時の高真空条件になると、ベシクル内部の水分が除かれで、形状が潰れると考えられます。
● 「ランダムレーザー:散乱光によるレーザー発振」岡本 卓 先生
A.基本的には光を増幅できる化合物であればレーザー発振する可能性はあります。
しかし、どの程度発振するかを確認するためには実際に散乱体を混合して実験してみる必要があります。
ローダミンは非常に効率が良いのですが、他の蛍光物質の場合は発振にまで至らない場合もあります。溶媒については制約はありません。溶質に合わせて選択可能です。
A.最近、散乱体に磁性体粒子を用い、磁場によって発光特性を制御するという論文が報告され始めていますが、あくまで散乱体としての利用になります。
増幅媒質として使われた例は見当たりません。
A.同じ原料、かつ同じ作製条件(例えばレーザー色素濃度、散乱粒子の粒径・充填率・分布状態など)で作られたものであれば、同じような性質を持つ光を出すことが出来ます。
特に、インコヒーレント型の発振の場合は再現性は高いです。
ただし、コヒーレント型発振の場合は同様の性質は持つものの、厳密なスペクトル形状は媒質ごとに異なります。
A.部位によって散乱条件が異なりますので、発生するレーザーの強度やスペクトルも異なってきます。
生体内で発光させたとき神経に影響を与えるかどうかは、神経を専門にされている方にお尋ねください。
マウスの脳の散乱の強さにもよりますが、レーザー色素を染み込ませればある程度発光するのではと推測します。
A.ポリマーの材料によって作製の難易度に違いはあると思います。ポリマーを増幅媒質として使う場合は微粒子の分散性が良いものが求められます。
また、ポリマーを増幅媒質かつ散乱媒質として使う場合は粉体化する必要があり、材料によりその容易さに違いが出ます。
● 光散乱全般 世話人会
A.初めに、DLSによる粒子径評価において、多重散乱と粒子間相互作用の効果を分けて考える必要があります。すなわち、多重散乱の効果が小さくても、粒子間相互作用は必ず存在します。ここでの粒子径は波長に対して十分小さいため、小さい点の拡散を観測していることになります。ここで、濃度を上げていくと観測される拡散は、協同拡散と呼ばれる現象に対応します(XCPS、もしくは粒子径がサブミクロン以上のDLSでは自己拡散になります)。協同拡散とは、浸透圧の濃度勾配で生じ、一般的には濃度とともに緩和が速くなる現象です。これは、特に電解質の場合に非常に速くなることが知られています。すなわち、粒子径はかなり小さく見積もられます。
確認する手段としては、少量の塩を添加することで電荷の効果を消去することが出来ます。
多重散乱がなくとも濃度効果があることをご理解ください。
A.非常に難しい課題です。高アスペクト比の分子やファイバーについて情報を得るには、異なる散乱角で実験を行うことが基本的なアプローチとなります。しかし、動的光散乱法の時間相関関数においては、回転拡散と並進拡散の寄与が重なる場合があり、これらを分離することは一般に困難です。
そのため、光散乱法では高アスペクト比のファイバーの詳細な形状情報を得るのが限界になる場合もあります。必要な情報に応じて、例えば顕微鏡観察や別の方法(電子顕微鏡法や原子間力顕微鏡法など)を併用する方が有用かもしれません。
A.両親媒性高分子に特化した知見を持ち合わせていないことをご了承ください。一般に、試料を分離する方法としてはやはり、遠心分離や透析、フィルターろ過などが考えられます。遠心で解離を心配されるなら、処理時間や回転数を変えて確かめられてはいかがでしょうか。解析的には、相関関数を2つの緩和時間でフィッティングすることも出来ますし、市販の装置であればCONTIN法などの分布解析に掛けることも出来ます。球状凝集体の並進運動なら、緩和時間の逆数が(sinθ)^2に比例するはずです。
A.DLSの解析には原理上、溶媒の粘度を代入して解析してください。一般的には濃度依存性のデータを取得して、濃度ゼロに外挿した値を議論します。高濃度(有限濃度)の場合に、溶液の粘度を代入する研究もあるようですが、別途、流体力学的相互作用を計算するのが正しいと思います。ちなみに溶液の粘度の話ですが、レオメータは低粘度の測定が非常に難しいです。もし低い粘度を正しく測定したい場合には、電磁スピニング(EMS)法を使われると良いと思います。
A.Mie散乱強度には強い角度依存性があり、その角度分布は着目粒子の粒子径に大きく依存します。このため、異なる散乱角のデータを解析することで、異なる粒子径の粒子からの散乱を分離して評価することが可能です。
「前方」「側方」「後方」という表現には明確な定義はなく、これらを示す際には単に散乱角を分類している場合が多いです。特定の散乱角を扱う場合は、具体的な角度(例: 0°、90° など)の値を使用して議論するのが一般的です。
A.ベシクルのサイズが十分に小さく、ベシクルと取り込まれた化合物との相互作用を無視できる場合、ベシクル内部に取り込まれた物質のモル質量を推定することは理論的に可能です。
ただし、一般的にベシクルからの散乱を無視することは難しいため、化合物を取り込む前後でベシクルの平均モル質量、モル質量分布、サイズが変化しないと仮定できることが必要条件となります。